陽だまりのホットケーキ(前)

日常のそのいち。アスカ視点。

 

「おなかすいたぁ~あ~す~かぁ~」

 

 昼過ぎ。ゆるい日差しの中本を読み耽りながら微睡んでいた…はずだったんだが。急速に現実に引き戻された。

日差しとともに黄金色の髪が揺れる。相変わらず長い髪だ。そろそろ切ればいいのに。

 

「んぁ?あぁー……あと2時間…」

 

「日―が―くーれーるーでーしょー!!」

 

 私の食事のために起きろ、とがっくんがっくん肩を揺らされる。面倒なことこの上ない。ってか痛い。

正直なところもうちょっと惰眠をむさぼりたい所存ではあるのだが。すごく。

隣が煩くてどっちにしろもう眠れはしないでし「あ~す~かぁ~」起きりゃいいんだろう起きれば。

 

「ったくさ、暇な時ぐらい寝かせてくれよ」

 

「何を三十代の疲れ切ったオッサンみたいなこといってるのさ」

 

「誰がオッサンか!」 中身はだいぶお前のほうが色々アレな時多いぞオイ。

 

 とりあえず、と椅子で寝たツケの体の重みを感じながら伸びとく。

オトメ曰く腰痛には効くらしいってさ。伸び。

もうこのくだりにも慣れた。慣れちまったか俺。悲しいなオイ。敷かれてんぞ。

とはいえもう何年だろう、とふと考えてみたりとか。

大分やんちゃになった姉貴のような妹のようなこいつともずいぶん長い。

…あれ、今浸ってねぇかこれ。起きよう。起きた。

さっき髪が長い、切ればいいのに、とか思ってたのだが、俺もだな。前髪邪魔。

サッと整えて台所に向かう。待ってろフライパーン。

 

「あたしはお寿司をご所望さー!」

 

「時間見ろ馬鹿。猫缶だしてやろうか」   

 

 いやまあ晩飯時だとしても同じ返ししただろーけどもさ。

おやつ時に寿司ってバステトかよ。ってか猫とやらは酢飯駄目だろうよ確か。

ちゃっかりとテーブルに着席してるだろう、と思ったのだが、ついてきてた。

何する気だ、おまえ。

かつて紅茶を料理だと胸を張って言ってたレベルだ。ちなみに俺は紅茶飲めない。

なんかね、駄目だった。

そもそもお茶に牛乳入れるとか何考えてんだとかね、お茶に果物とかね、まったくもう。

この前ローレライにその件で話したこともあった…んだけど。

 

「どっちにせよ葉っぱの出汁ってやつですよますたー。フレーバーですふぃーばーです」

 

 独特な感性をお持ちなことを忘れてましたよちくしょーめ。

あ、でも出汁って聞くとちょっと納得した気する。

海藻の出汁とか魚突っ込むもんな。どこぞの人魚のヒレとかね。

あれ、軽く事件になったよなあれ。

・・・閑話休題。

そのままライちゃんに声をかける。

「おやつたべ 「たべますよーいきますよー」…最後までしゃべらせてくれってば。

風呂場でびたん、と音がしたので多分そのうち来るだろう。ってか風呂で暮らす人魚って相変わらず字面凄そうだ。

 

「で、なにつくるっさー?」

 

「あー…めんどくさいからホットケーキあたりでいいだろ」

 

「あ、私参加可能な奴」

 

「それでいいのかよ。そのうち女子(仮)とかなるぞ絶対」

 

「ふっふっふ。台所を台無しにされたくなければ言うことを聞くっさ!」

 

「おのれ!台所を人質とは卑怯な!交換条件は何だ!言ってみろ!」

 

「いいだろう…まずはクリームを増し増し」

 

「太」

 

「よかろう、台所が焼ける覚悟がおありらしいですな」

 

「ああ!お玉が!お玉の腰があらぬ方向に!」

 

 いつまで続くのこの茶番。いや、さっきの明らかに俺の失言だけどさ。

あ、でもがりがりな子よりはいいよね、まだね、健康的じゃんさ。…なんだこの弁解は。

ライちゃんが来てヒレ祭りになる前に茶番から茶菓子作りに動かないとね。

パンケーキ系統に出汁は流石に頂けない。

 

「フフ…今日の私はやる気っさアスカ!さあ!焼いて見せようぞホットケーキ!」

 

「ティナ以下とはもう駄目なんじゃないっスかね」

 

 ホントに大丈夫か、仮にも年上でしょうよアンタ。

とはいえ労働力が増えるのはいいことなのでほっておく。

労働力が増える…のは確かなんだが確実に労働量も増えるよなこれ。

あれ、素直に座っててほしい気がしないでもねぇぞ?

 

 ざっとボウルに材料を出して卵を割る。あとは混ぜて焼くだけ…

なのだが、何度こいつは台所を破滅的環境にしたことか。

タタラベなんだから手先は器用なはず…なんだ…よな?

っておい待て、だから分量を量れ、合成魔術で甘いものは作れねぇっての。

 

「むぅ。だいたいでできるっさ大体で」

 

「お前なんでそれで毎度毎度武具完成させられるんだよ怖いわ」

 

「削りだしとかだからねー、意外とこう…降りて来た的な感じで」

 

「何それ凄ぇ。いやでも料理は分量守れ。そもそもお前に目分料理は不可能だ」

 

「言いきられた!ひどいっさアスカ!」

 

「何を今更」

 

 しゃべりながら軽く手を返す。伊達に作り続けちゃあいないわけで。

簡単なものほどきれいに作りたくなったりとかするもので。あるじゃん、単純作業ほど完璧にこなしたくなる奴。

こう、料理とかこりだすと止まらないときとかある奴。

玉藻姉ぇ曰く「男性のほうが凝り易いのよ?」だとか。ホントかねぇ。

 

 

「あとはやくだけですー?」

 

「ふぇあ!?」

 

 唐突の背後アンブッシュに唐突過ぎる声が出ちゃったじゃねーかこの人魚め。というかひとつ言わせて。

 

「いきなり抱き着くな!音もなく後ろに立つな!と言うかそれ以前に」

 

 風呂から出たんだよな、ウン、知ってた。それは知ってた。

そしてリニア待て。何故そのまま普通に遊びだすかな。うん、回り見ようぜお前さん達よ。

 

「服きてから出て来いド阿呆!!」

 

 ついでに髪もかわかすさー!と意気込むリニアに引きずられて人魚退場。ごーほーむ。

・・・いやまあ風呂場なんだけど。

ロア事変の一件以来、「関わった者達」を寄り代に、自身の物語を保管することである程度自立化が可能になった。

しばらく小さかったんだけどなぁ。最近はちょくちょく人魚状態に戻れるようになってきた。おかげで色々肩身が狭い。

 

「あーくーん・・・?大声出してたけどなーに―?」

 

 階段すっ飛ばして上からひょっこりというよりばっさばさ。家に止り木がいるんじゃねーのとか思う登場の仕方だなオイ。

ウィスプから借りたらしい漫画を片手にそのままふよふよよってくる。ティナ、いいから着地しとこう、うん。

飛空庭は空の上だが重力はしっかり機能してるぞ。

 

「ほっとけーきー…ってそっか、もうおやつだー」

 

「うむ、あ」

 

「うにゅ?」

 

 フライパンを火にかけて生地を流そうかってタイミングでふと気づく。

例の増し増し要素がない。クリーム。「クリームか…」

 

「生クリームたりないの?」

 

「足りないっつーか無い。そうそう使わねえしなぁ。」

 

 風呂場から「にゃんでさー!走れアスカ!私の舌は甘みを求めている!」とか声が上がってるけど聞こえなーい。

今から買に行くのもなあ。ダウンタウンにはねーだろうし、そうなるとファーイーストか。

どちらにせよ「ちょっとそこまで」で行くには徒労だ。めんどい。却下。

 

「あ、そういえばあーくん!いいじょうほうがあるよ!」

 

「知っているのか雷電」

 

「うにゅ!デスねーがみんなでケーキつくるって言ってたよ!あまってるかも!・・・らいでん?」

 

「・・・ほぅ。それだ」

 

 ダウンタウンならすぐそこだ。そこまで手間取ることもないだろう。

軽い散歩がてらに行ってきますかね。結局俺が外でるんじゃねーか面倒な。

ボウルには布かけといてりゃあ大丈夫だろ、うん。

 

「生クリーム確保してくる―」「るー!」

 

 あ、ついて来るのねティナ。まぁ、一人で行くのも味気ないしな。

ついでにちょっと荷物でも持ってもらうかね。

 

「あいさー!はやめにねー!」

 

「みんなにもよろしくなのですよー、ますたー」

 

 

 ダウンタウンへは予想外に早く着いた。そっからそこだし、と歩いたんだが。

途中カウンターに戻る途中のベアと遭遇。あ、飴ちゃんもらった。ソーダ味。

カウンターについたときはまあ、いつもの面々といった感じだったのだが。

珍しくデスが料理してた。

あとはテンタクルに毒見を「させられる」ウルフとかコンロが足りない分を嫉妬で解決した清姫とか。

相変わらず騒がしい面々なことで。…あんまりよそのこと言えないけども。

あ、ティナがデスにつかまった。面白いから放置。

ついでにフェイ姉さんから紅茶が回ってきた。

え?いや、飲めないし飲まないからね俺。あ、これあれだ、わかっててやってるやつだ。

だからもう茶番はいいんだって。お茶だけにってこれ上手いこと言えんじゃねぇの俺。ザブトンイチマーイ。

丁度良くティナがデスの抱擁からエスケープ。そのまま俺を盾にするように後ろに隠れる。

そのまま軽い挨拶をしてる俺を半ば強引に引っ張って戦線離脱。戦略的撤退…俺は作戦完了だけどな。

 

 

「ねー、あーくん?」

 

「んぁ?」

 

「あーくんとりーちゃんって、もうずーっと前から一緒にいるの?」

 

「まー、だいぶ前からだなぁ。もう8年ぐらいにはなるんじゃねーか?」

 

「ふぁー・・・仲良しさんだねぇー。」

 

「最初はそうでもなかったけどなぁ」

 

「にゅ、そーなの?」

 

「そんなもんさ」

 

「うにゅ・・・だんじょのいとなみはむずかしい・・・・」

 

「べふぉっ!?」

 

「にゅ?」

 

 一体どこからそんな台詞を覚えてくるのやら。お兄さん悲しい。(適当

とりあえずどうするかといいますとさ、これはこれで答えにくい訳なんだよ。

・・・世の思春期共、察せ。

 

 

 

 でも、まぁ。本当に。

本当に、長い付き合いになったもんだ。

八年前の、あの日から。

正直、第一印象はあまり良くなかったんだ、これがな。

あの日、兄貴に連れられて初めて訪れた異世界で、初めて喋った相手だった。

色々荒んでたんだろうなぁ。あんまりいい顔してなかったろうし。

第一声が「ひっ」だったもんな。明らかに引かれてんじゃねえか。

あの頃の俺からすりゃあな。

弱そうだし、あからさまに引っ込み思案そうだったし。

でも正直んとこ、羨ましかったんだろうな。・・・・小奇麗だったし。

 

「・・・あの」

 

「あぁ?」

 

「・・・うぅ」

 

「・・・んだよ面倒くせぇ」

 

 当時の会話がほとんどこんなだった。

つーか、今思うと今のあの明るさはどっから来てんだ。

亜空間転送装置でも積んでるのかね。

それからずっと、付きまとわれてイラつくちびっ子と

ビビりながら一定距離で付いてくるちびっ子の図の完成。

ずっとずっと付いてくるもんだから、それはそれで放って置けなくて。

引っ張り出したのだ、外に。

チビなりに考えてたんだろうなあ。見せようと思ったんだよ。

暗がりから出たばかりの自分が、綺麗だと思った、陽の光を。

で、ちょっといいかっこしようとして、そこらの「敵」を倒そうとして。

右肩をちょっと擦りむいて。

 

どうだよ、すげえだろ、って

俺がいるから大丈夫だって。

 

 そう言おうと思ってたんだけどなあ。

振り返った瞬間、本でスパーン・・・いやあれ確実にドゴォ的な効果音つくやつだったな。

あっけにとられてひっくり返って。

振り返ったらなぁ。

 

「あー君の、馬鹿」

 

 結果的に泣かせたわけですよ、えぇ、ハイ。

俺からしてみれば「なんでないてんのアイツ」ぐらいだったんだけど。

しばらくリニアは部屋から出てこないし。

普段温厚なオヤジさんからは拳骨もらったし。

なんでみんなそんなに怒るのさ、って。

気になってしょうがなくて。

引きこもったリニアの部屋に行ったらかぎかかってたから

粉砕玉砕大喝采してやったけど。(今考えると無茶苦茶だけども。)

で、夜ぶっ通しで話をしたんだ。

今までのことを、全て。

初めて剣を持った日のこと。

初めて街の外へ出た日のこと。

初めて赤くない空を見たこと。

初めて――――

 

 で、結局また泣かれたんだよなあ。

心配したんだ、馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿―――

すごい勢いで手当たり次第にもの投げながら。

泣きじゃくりながら、武器と・・・リニアの母さんの話をされたんだ。確か。

武器を作る人たちと、それを使う人の話をさ。

・・・・閑話休題。

 

「あー・・・まぁ、なんだ」

 

「にゅー?」

 

「いろいろあんだよ、色々」

 

「いろいろー」

 

「ん。いろいろ。」

 

「あーくん、おなかへったー」

 

「腹が減っちゃあなんとやらだな。おやつ時にゃぁちっと遅くなっちまったけど。」

 

 帰りますかね。腹が減ったあの猫がなにやらかすかわかったもんじゃないしな。

まぁ、それも慣れた、もうあれだ、全部慣れたで片付けられる気がする。

……やっぱ敷かれてんなこれ。おのれリニア。

アップタウンへの門をくぐる。最近あったかくなったもんだ。

日差しが心地よい。やっぱまだ昼寝してたかったなぁ。

惜しいことしたなーとか思考をぐるぐる。

特に考えることもないんだけど、何も考えないのも暇なもんなんだよなー。

飛空庭の紐を下してもらい、上る。

いっそ下までエレベーターおろしてくれよ。

 

「あれ」

 

ティナが声を上げる。

…確かに、甘いにおいがする。焼いてる?もしかして焼いてる?

ライちゃんとリニアで?

 

「……いつから錬金術師になったんですかねあいつら」

 

「あーくん、これだめなやつ?」

 

「…突入!」

 

「うにゅ!」

 

 覚悟を決めろ。

例えどんなダークマターが発生しようとも。

決してあきらめてはいけない。

あきらめてはいけないんだ。

あいつは無事か・・・無事なのか・・・・?

 

「台所ォ!!」

 

「あ、二名様ご案内ですー?」

 

「にゅ?」

 

「あれ」

 

 大丈夫っぽい…?

ボウルひっくり返したりとかない?生きてる?(掃除的な意味で

いつもならまるで戦場と化した台所と煙を上げるダークマターが・・・

 

「ない」

 

「何訳わかんないこと言ってるのさアスカ。」

 

「それなりにがんばりましたよー。まぁ両面焼いただけですけど。」

 

「まぁ、ちょっちこげちゃったさー。」

 

「うにゅー・・・あまいにおいにさそわれたのだー」

 

 ティナがぱたぱた着席。ライちゃんも続いて。

丈の合わないエプロンを着て、ボウルを持って。

 

「とりあえずクリームも作るっさー。準備は万端さね!」

 

「へいへい。さっさとやっちまおう。流石に俺も腹減った」

 

 あの日の空のような、黄金の髪を引き連れて。

 

「あ、そーだあすかー」

 

「んぁ?」

 

「おかえりさー。」

 

「おぅ…、ただいま」

 

 陽だまりのようなこの場所が。

たまらなく、心地良い。

 

 

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